前置きは「ぬか漬けの作り方」に書いた。ここからは実践編だ。簡にして要を得るスタンスで解説していこう。
1.ぬか床を入れる容器を準備
なんでもいい。タッパーでもカメでもホーローでも。蓋で密閉できればOK。目安は、
- ひとり暮らし、同棲、夫婦……3リットル程度
- 4人家族……6リットル程度
大は小を兼ねる。3人家族のわが家は6リットルを常用。写真左が3リットルで、右は6リットル。
2.材料をそろえる
最低限必要なのは、米ぬかと水と塩、それと昆布、唐辛子。
以下の分量は、ぬか2kg、ぬか床なら4kg分。6リットルの容器にぴったりの量だ。あ、上写真はあくまでイメージ。ぬかや水、塩は以下の分量よりずっと少ないのでご注意。
新床に必要な材料(ぬか床4kg分)
- 米ぬか……2kg
- 塩……200g(ぬかの10%)
- 水……2kg(2L)
- 昆布……15X10cmを2本ほど
- 赤唐辛子……5本
3.材料を混ぜあわせる
材料をそろえたら、ボールでよくこねる。
1.ぬか、ぬかと同量の水、10%の塩をボールへ入れる。 | 2.耳たぶくらいのやわらかさになるまで、全体をしっかり混ぜあわせる。 |
3.昆布と唐辛子を入れて軽くまぜる(かつお節や煮干しなどはお好みで)。 | 4.容器に移し、ぬか床を上から押して叩いて地ならしする。 |
ぬか床のかたさについては諸説ある。
- 片手で握ったとき、水分が染みだすくらいのやわらかさ
という人もいれば、
- 味噌くらいのかたさ
という人もいる。どっちでもいいと思うが、ぬか床は野菜を漬けているうちにどんどん水っぽくなってくる。だから、最初はかためがいいだろう。
というわけで、目安は、
- 耳たぶかお味噌くらい
がベスト。
4.捨て漬け
できたばかりのぬか床では漬け物はつくれない。いらない野菜を使って、ぬか床を発酵させて、微生物を育ててやる必要がある。これが「捨て漬け」だ。
捨て漬けに要する期間は、1週間くらい。この間の漬け物は、単にしょっぱいだけのシロモノだから、普通はクズ野菜を使う。キャベツの外葉とか大根や人参のしっぽなどがベター。
捨て漬けの手順はこんな感じ。
- クズ野菜を入れて、1日2回かならずかきまぜる。
- 3~4日たったら、クズ野菜を入れ替える。
- これを2回繰り返したら、できあがり。
なお、市販の熟成ずみのぬかとか、他人から分けてもらったぬか床を使った場合、捨て漬けは不要。
なお、ぬか床の適温は20~25度。30度を超えると、異常発酵する恐れがあるので、冷蔵庫に入れるか、クーラーの効いた部屋に置くかしよう。半面、冬場は発酵がなかなか進まない。つまり、ぬか床づくりには向かない。冬場に新床をつくるなら、熟成ぬか床をゲットしよう。
熟成を早め、質のいいぬか床に育てていきたいなら、こちらの記事にも目を通すといい。
5.本漬け
ぬか漬けというやつは、旬の食材をほぼナマでいただくものだから、野菜は新鮮であることが大前提。新鮮な野菜なら、たいていの野菜をぬか床は受け入れてくれる。まあ、なかにはしなびたくらいがちょうどいいものもあるが。
本漬けはこんな要領でおこなう。
1.ぬか床を掘り、野菜をつっこむ。 | 2.野菜を埋めたら、上からぬかをかぶせる。外から見えないように。 |
3.ぬか床を上から押したり叩いたりして、空気を抜き、表面をならす。 | 4.容器のふたをして、あとは待つのみ。 |
ポイントは、
- 野菜同士がくっつかないようにすること。
- 野菜をぬか床のなかに完全に沈めること。
- ぬか床の空気をしっかり抜いてやること。
- 最後に、ぬか床の表面を平らにすること。
乳酸菌は空気があってもなくても働くが、酸素がなければより活発。ぬか床の空気を抜くことで、よりよく発酵が進むわけ。最後に表面を地ならしするのは、空気との接触面を減らし、酸化を防ぐためである。
これで数時間後、遅くとも1~2日後にはうまいぬか漬けが味わえる。
6.ぬか漬けの取り出し方
ぬか漬けが最もうまいのは、ぬか床からひきあげてすぐ。とりだしたら、水道水でさっと洗って、切って、即刻「いただきまーす!」――こいつが基本である。
というわけで、
という、“ぬか漬けの定理” を頭に入れておこう。
ぬか床の野菜をとりだす際は、ちょっとワクワク。取り出し方でも、ぬか漬けのおいしさは変わるもの。
- 野菜についているぬかは、しごいて容器へ戻す。
- さっと水洗い。ぬかの栄養分を落としすぎない。つまり洗いすぎない。
- 食べやすいサイズにカット。見た目も大切。料理は目で楽しむ。
- お皿に盛りつける。
今夜のメインディッシュはぬか漬けだ。ぞんぶんに舌鼓を打とう。
7.毎日の手入れ
なるたけ毎日、野菜を漬けるようにしよう。ぬか床の発酵が進み、どんどんぬか漬けがおいしくなってくる。反対に、野菜を漬けないと、ぬか床の微生物は元気を失っていく。
うまい漬け物が漬けられるようになってきたら、ぬか床を1度そのまま食べてみることをおすすめする。そのときの味と香りを胸に刻むのだ。それが、わが家のぬか床の風味の基準となる。
ぬか床は毎日かきまぜるのが基本だが、それが面倒なら冷蔵庫に入れる手も。冷蔵庫内では、微生物の働きがにぶくなる。そのぶん、漬かるまでに時間がかかるが、かきまぜる回数も減らせる。
冷蔵庫内では?
漬かるまでの時間……いつもの倍
かきまぜる回数……いつもの半分
野菜を毎日漬けていると、ぬか床が水っぽくなったり、漬かりが悪くなったり、味が落ちてきたりするもの。そんなときは適切に対処してやれば、息を吹き返してくれる。
面倒に思えるが、リアルなRPG(ロールプレイングゲーム)のようであり、とても楽しい。
「おれってダメ人間」という無能感や、「おれってひとりぼっち」という孤独感に苛まれて身動きがとれなくなった深夜、ひとり寝床から這いだして、暗い台所でぬか床をかきまぜる。ひんやりとしたぬかの感触が心地よい。
ひとくち囓れば、余韻嫋々(じょうじょう)たる味わいを楽しませてくれる。
最近、わたしを励ましてくれるのはぬか床だ。妻ではない。