新床を立ちあげてから半年――。ぬか床が一人前になるまでの期間である。
一人前、というのは、ティースプーンでぬか床をすくいあげたら、そこに100億ほどの乳酸菌が蠢(うごめ)いている状態のこと。
食べ物といっても、ここまでくると、もはや “飼育” だ。手入れ方法というより、 “飼い方” といったほうがなんだか腹に落ちる感じがする。
というわけで、ぬか床の飼い方をご説明。
1.ぬか床に快適な室温を保つ
ぬか床が快適に過ごせる気温は、われわれ人間と同じ。20~25度くらい。このくらいの室温の、直射日光のあたらない部屋に置いてやるといい。
夏場は、クーラーの効いた部屋をぬか床が転々とする羽目になる。昼間は居室でテレビを見ていて、夜になると家族といっしょにベッドルームへ移動、なんてことになる。
室温30度を超えたら、熱中症の心配だって出てくる。40度を超すと死んでしまうヤツもいる。
人間のように夏バテしてのびるわけでなく、高温で異常増殖、異常発酵するのである。こうなると、漬け物の風味がガクンと落ちる。元気余ってまずさ100倍、といったところか。
ウナギを食べさせてももとには戻らない。国産天然ものでもダメだ。
こうした事態を避けるため、暑い日は冷蔵庫に入れることをおすすめする。
2.1日1回はかきまぜる
1日1回、ぬか床全体を底からまんべんなくかきまぜてやる。これ、基本。
漬け物をとりだしたときも、さっと軽くかきまぜてやるといい。
ぬか床の正しいかきまぜ方
- ぬか床の上部と下部をごっそり入れ替える感じでかきまぜる。
- ただし、かきまぜすぎない。乳酸菌の働きが悪くなる。
- ぬか床の表面を押したり叩いたりして、内部の空気を抜く。
- 容器の縁についているぬかはやさしくふきとって。清潔をキープ。
ぬか床を毎日かきまぜるのは、乳酸菌と酵母、酪酸菌など微生物のバランスを最適に保つため。乳酸菌は空気がなくても生きていけるし増殖もできるけれど、空気がない環境だとより活発に増える。酪酸菌は空気を嫌うので、乳酸菌同様、空気のない環境で活発に増える。酵母は空気を好む。
だから、毎日かきまぜていないと、異常発酵が起こり、
- 乳酸菌が増えすぎて、酸味がきつくなる。
- 酪酸菌が増えすぎて、高校球児の靴下みたいな臭いが発生。
- 酵母が増えすぎて、表面にびっしりと白い膜を張る。
といったような事態が発生する。
こうなると、もとに戻すのにたいそう骨が折れるのだ。
わが家のぬか床にも、酵母が膜を張ったことがある。発見したのは妻だ。「ぬか床に白いものがびっしり……」という妻の声を聞き、電流を流されたカエルのようにわたしは飛び起きた。一目散にぬか床のもとへ。ギョッとした。どうみてもカビであった。
ぬか床と暮らし始めると、帰省も旅行もできないのか?
そんなことはない。3~4日ほど草津に行ってくる、というのなら、冷蔵庫に入れておけばOK。ぬか床の活動がゆるやかになって、それくらいはもつ。
1~2週間くらいカンボジアで地雷撤去してくる、というのなら、冷凍庫に入れておけばOKだ。ぬか床はコールドスリープに入る。無事帰宅できたら、自然解凍でOK。ぬか床は息を吹き返す。
3.香りと味をチェックする
ぬか床をかきまぜるとき、ついでに香りと味をチェックしよう。酸味は適度か(酸味は、乳酸菌がつくる乳酸で、菌が元気なあかし)、刺激臭や腐敗臭がないかどうかなどを鼻と舌で確認する。
ぬか床の健康状態に問題があるようなら、早めに手を打とう。
以下は、症状に応じた処方箋。
すっぱい
酸味の正体は乳酸。そして、乳酸は乳酸菌がつくりだすものだ。ぬか床やぬか漬けがすっぱいのは、ぬか床が元気な証拠。足しぬかで、一件落着である。
水っぽい
水分が多いと、腐敗臭がすることも。これも足しぬかで解決。すぐおさまる。
漬かりが遅い
塩をこまめに足してやればOKだ。すぐなおる。
おいしくない
うまみ増進材料が不足している可能性大。昆布や煮干し、かつお節、干ししいたけなどを入れる。
薬品臭、シンナー臭がする
かきまぜ不足か塩不足が原因で、乳酸菌以外の菌(産膜酵母)が増えすぎている。毎日しっかりかきまぜて。ぬか床を食べてみて塩分が弱いと感じたら、塩を足すのを忘れずに。いったん野菜を漬けるのは中止。なお、産膜酵母は人畜無害。
お父さんの靴下のにおいがする
これもかきまぜ不足。ぬか床の底部で、酪酸菌が異常増殖している。毎日きちんとかきまぜて。酪酸菌も無害、というより、乳酸菌を増やしてくれる有益な菌。
刺激臭がある
鼻にツンとくる匂いがあるときは水分が不足している。水を足せばOKだ。
いろいろ手を打ってもなお味が悪いなら?
「まずい、おいしくない、味が悪い、なぜ?」の記事をとくとご覧じろ。
ぬか侍からのアドバイス
なにが起ころうとも、うろたえる必要はない。
ノーベル賞作家の大江健三郎氏もこういっている。